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2018年6月19日
AIを活用したシールド掘進計画支援システムを開発~AIが自己シミュレーションを繰り返し、掘進計画を最適化~ 知能情報分野・加藤昇平教授
名古屋工業大学は、このほど、清水建設株式会社と共同で、AIを活用してシールド工事のトンネル掘進計画を最適化する「シールド掘進計画支援システム」を開発しました。本システムの特徴は、AIが試行錯誤しながら自己学習することで最適解を導く強化学習手法により、トンネル線形に応じたシールド機操作の計画値、セグメントの配置計画を導き出すことです。今後、福岡市内で施工中のシールド現場「唐の原第1雨水幹線築造工事」に本システムを適用し、計画作成に活用する予定です。
シールド工事では実施工に先立ち、曲線を含む計画線形に対するシールド機の運転方法と、形状の異なる複数のセグメントの割り付け方法について事前シミュレーションを行い、これらの計画値を設定します。特に曲線部については、曲線半径に応じたシールド機の運転制御方法を入念に計画しておくことが重要です。
これらの計画値は従来、シールド機の形状やトンネルの曲線半径等に基づき、三角関数を用いた理論計算で算出していました。一方、本システムでは、AIがゲーム感覚で自己シミュレーションを繰り返しながら、自ら設定した計画値を改善していきます。システム開発に当たっては、本学大学院工学研究科・加藤昇平教授(創造工学教育課程 知能情報分野)ならびに加藤研究室のAIプログラミングのノウハウと、清水建設株式会社のシールド工事のノウハウを融合し、シールド掘進をゲームに見立てたAIシミュレーションプログラムを設計しました。
この”掘進ゲーム”では、与えられた計画線形に対して、AIが自ら設定した曲線部でのシールド機の運転制御方法、セグメントの割り付けといった試行条件に基づき模擬掘進を行い、その結果を、トンネル線形に対する掘進軌跡の誤差や、シールド機とセグメント・掘削地山との干渉度合等を評価指標として得点化します。試行中に掘進誤差の許容値を上回った場合や、シールド機とセグメントが干渉する可能性が出てきた場合には、その時点で試行終了となり、試行条件を再設定して新たなシミュレーションを実行します。AIは膨大な試行を重ねる中で、どのような条件を選択すれば高得点が獲得できるかを自己学習していき、最終的にそれ以上は上積みができない最高得点にたどり着きます。この段階の試行条件を最適解とし、掘進計画に活用します。
本システムは、トンネル掘進開始前の計画段階のみならず、掘進開始後の日々の掘進指示書の作成にも活用できます。AIに、直近の掘進状況を踏まえた計画修正シミュレーションを実施させることで、現場技術者の労働時間削減につながることが期待できます。
加藤教授は、シールド工事におけるAI活用の取り組みとして、強化学習と呼ばれる試行錯誤を通じて環境に適応する教師なしの機械学習手法,ならびに,遺伝的アルゴリズムと呼ばれる生命進化の仕組みに着想を得たメタヒューリスティックな最適化アルゴリズムをシールド工事計画の自動化に応用しました。
セグメント割付とは,シールド工法の施工計画において、予め定められた計画線と呼ばれる曲線に合わせて複数種類あるセグメントをどのように割付けるかを解く問題です。研究開発で用いたシールド現場のデータでは、セグメントの直径約12mに対してズレの許容値は約50mmと制約が大変厳しく、状態空間が膨大であるのに対し実行可能領域が非常に狭い特徴があります。そこで離散値を扱う制約付き遺的アルゴリズム(εDGA)を提案し,実データを用いたセグメント割付実験により、従来手法(技術者による人手作業)と比較して余掘り量の約20%の掘削土量削減(試算)に成功しました。6月5日~8日に鹿児島市で開催される第32回人工知能学会全国大会にてこの成果を発表します。
今後は、εDGAを高度化して強化学習と遺伝的アルゴリズムをハイブリッドした新しい学習アルゴリズムを考案することで、セグメント割付とシールドマシン制御計画を同時に実行するシールド掘進計画支援のAIを開発します。
参考
AIによるシールド掘進シミュレーションのイメージ
曲線部におけるシールド機の方向制御
曲線部の施工では、掘進中のシールド機が地山と干渉しないよう掘削面を大き目に掘削する「余掘り」や、シールド機本体の前胴部と後胴部に角度を付けて屈曲させる「中折れ操作」を行いながら掘削を進める。掘進計画の立案に当たっては、余掘りのタイミング・掘削量、シールド機の中折れ角度の計画値を設定する。
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